2LDKの元!?カレ
どれくらいこうしていただろう。
長いようで本当は短い時間だったのかもしれない。
「別れましょう」
彼にそう言わせてしまったのは、私だ。
彼はきちんと私を好きでいてくれたのにそれに応えてあげることができなかったから。
でも、西野くんの言葉に迷いは感じなかった。
「これであなたはもう自由です」
「……祐人、ごめんね」
「そんな困った顔、しないでくださいよ」
「そんなのムリだよ」
私がさらに困った顔で答えると西野くんは苦笑いを浮かべた。
それから彼は、改まった様子で口を開いた。
「……実はオレ、出版社を辞めることにしたんです」
「それ本気で言ってるの?」
私は驚いた拍子に、手にしていたコーヒーを落としてしまった。
西野くんは転がるそれを拾い上げると、ゴミ箱に放り投げる。それから笑顔で私の目の前に立った。
「もちろん本気ですよ。編集長にはもう話しました。オレ、フランスに行きます」
「フランスへ?」
「はい。鏑木さんがフランスで働いていた頃からの顧客に、モード誌の編集長をしている人がいるんですけど……」
西野くんは鏑木からの紹介で、フランス語を話せる日本人の編集者を探していたというその編集長に直接会ったそうだ。
経験も浅い西野くんは正式採用というわけにはいかなかったようだが、鏑木の推薦もあって期限付での雇用が決まったということだった。
西野くんの退職日は二カ月後。ラルゴ十二月号の発売日だ。