2LDKの元!?カレ
駅に着くと、待ち合わせをしていた新幹線のホームへと向かい、大阪行きの新幹線に乗り込んだ。
オレは今、医療機関の顧問弁護士をしている。
今回の大阪出張の目的は、とある病院で発生した医療事故に対して、病院側の主張を裏付けるために、複数の大学病院の教授に、術中に執刀医が下した断が妥当であったという証言を得るため。
勝機はある。
しかし、患者や遺族の悲しみに触れるたびに自分のしていることに疑問を抱かない訳ではない。
絶対的な正義など、この世には存在しないのだ。
心が鉛のように重い。
今日、特にそう感じるのは、志保子の事が頭から切り離せないでいるからなのだろう。
座席に深く腰掛けるとノートパソコンを開きながら小さくため息をついた。
すると、隣に座っていた緒方亜衣(おがたあい)がオレの顔を覗き込む。
「先生、どうかされました?」
緒方はオレと同じ法律事務所に所属する新人弁護士だ。
今回の事案は特殊なケースで、経験を積みたいからと彼女自身がオレに同行することを希望したのだった。
「いや、なんでもない。それより君は?まだムリをしない方がいいんじゃないのか?」
「私はもう、大丈夫ですから。お気遣い、ありがとうございます」
微笑みながらゆっくりと頭を下げると、肩のラインで切りそろえられた彼女の黒髪がサラリと流れた。
「……そうか、ならいいんだが」