2LDKの元!?カレ
あれは、おとといの夕方。
ホテルのラウンジでクライアントとの面談をしているはず緒方からの電話があった。
『クライアントと話を始めてすぐに、突然頭からコーヒーをかけられて、大声で罵倒された』と。
彼女の声が震えていて、ひどく動揺しているのが分かった。
急いで駆けつけると、窓際の二人掛けのテーブル席で震えている緒方を見つけた。
オレが声を掛けると、よほど怖い思いをしたのか彼女は声を上げて泣き出してしまった。
そのまま一人で帰す事も出来ずに、仕方なく自分のマンションに連れ帰ることにした。
マンションへ向かうタクシーの中で、事務所に連絡を入れ、緒方のクライアントについての調査を依頼した。
その返答は思ったより早く、最近彼女が係わった事案の原告側の関係者であることが分かった。
敗訴したことへの逆恨みなんてことはよくあることだ。
命を取られなかっただけよかったと思うべきなのかもしれない。
後の対応は、事務所の判断に委ねよう。
マンションに到着すると、彼女の手を引いてリビングのソファーに座らせ、なかなか泣き止もうとしない彼女をなだめて、話を聞いてやって、シャワーを使わせた。
志保子の留守中に、無断で他人を家に上げるなんてするべきではないと分かっている。
だから、この事実は話さないでおくつもりだ。志保子には余計な詮索をさせたくはないから。
しかしそれが、オレたちの関係に大きな亀裂を生むことになろうとは……この時はまだ夢にも思わなかった。