2LDKの元!?カレ
行き先は那須高原。
東京駅から新幹線で一時間ちょっとの距離だ。
おそらく11月号に掲載予定の、”ブライダル特集”のためのロケハンに行ったのだろう。
編集長が大絶賛していた大聖堂。おそらくあそこにもいくはずだ。
資料を少しだけ見せてもらったが、壁一面をアンティーク・ステンドグラスに囲まれた堂内はため息が出るほど美しかった。
編集長のことだ、ちゃっかり那須観光もしてくるはず。
おそらく西野くんの帰りは深夜になるのだろう。仕方がない。
私は彼のメールに了解したとの返信して、ひとまず校正の期日が迫っている原稿を手に取った。
無心で作業に没頭ていたら、気付いた時にはすっかり日が傾いていた。時間が経つのはどうしてこんなに早いのだろう。
幸い本日仕上げなければいけない原稿や、スケジュール調整は大方片付けることが出来た。
凝り固まった肩をほぐすように、大きく伸びをして、時間をかくにんする。
「もう、六時過ぎか。さてと」
私はカバンを持って立ち上がると、会社を出てて恵比寿に向かった。
駅から五分ほど歩いて、大きな通りから裏路地へと入ると、まるでパリの街なかにあるような石造りの建物がその姿を現す。
目立った看板は無く、番地を示すプレートの上に埋め込まれた石板には“ル・シエル”と刻まれている。綺麗な細工が施された木製の扉の前には、黒いスーツを着たドアマンが一人立っていて、私の姿を見つけると小さなため息をついた。