2LDKの元!?カレ
「……じゃあ、鏑木さんに会わせてください。そうしたら帰ります」
「それは出来かねます」
「でしたら帰りません」
私がそう言い切ると、コミヤマさんの表情は険しく、眉間のしわはさらに深くなる。
「では、私と取引をしませんか?」
「取引、ですか?」
囁かれた少し危なげな言葉に、私は眉をひそめて聞き返す。
するとコミヤマさんはゆっくりと頷いた。
「……明日、二名様で頂いていた予約のキャンセルがありました。その席をあなたに」
「それ本当ですか?」
思わず歓喜の声を上げると、コミヤマさんは人差し指を自分の唇に当てて咎める。
「ご内密に。ですから本日はお引き取り頂けますね?」
「勿論です」
「お名前を頂いてもよろしいですか?」
「小松です、小松志保子」
思ってもないチャンスだった。
私はコミヤマさんから傘を受け取ると、軽い足取りで駅へと向かって歩き出した。