2LDKの元!?カレ
「別に」
「そんなはずないだろう?」
スルリと滑り降りてきた聡の指が、私の頬を優しく撫でた時、リビングのテーブルに置かれた二つの携帯電話の一方が規則的に振動しながら無機質な電子音を奏で始める。
鳴っているのはスマートフォンではない方。黒の二つ折りの携帯電話は事務所から与えられている仕事用のものだ。
「聡、仕事の電話でしょ?でないと」
「……ああ」
私から離れて、リビングのテーブルに手を伸ばす。聡は携帯のディスプレイを確認すると、一瞬躊躇するようなそぶりで通話ボタンを押した。
「はい、高比良です。どうした?」
その口ぶりから、クライアントや上司からの電話ではないことが分かる。
「明日」「駅」「始発の新幹線」言葉の端々から分かるのは、電話の相手が出張に同行する人物だということ。
長くなりそうだ。
このまま電話が終わるまで待っている意味はないと考えて、私は部屋のドアノブに手をかける。
すると聡は慌てて私の腕を掴んだ。