2LDKの元!?カレ
「いくなよ」そう目で訴えながら、ムリやり話を終わらせようとする。
「悪いけど、もう切……え、昨日何を忘れたって?そんなの見当たらないけど」
昨日の……忘れ物。
電話の相手は、昨日バスルームにいたあの女の人。
そう認識した瞬間、掴まれた腕がゾワリと粟立った。
新しい恋人と会話をしながら、こんなふうに触れてほしくない。
私は聡を睨みつけると、掴まれた腕を振りほどいた。
「おい、志保子、どうしたん……」
聡の制止を振り切るようにして、無意識にカバンを掴むとそのまま家を飛び出した。
丁度エレベーターが止まっていたのは幸いだったのだろうか。
もしかしたら、引き留められていた方がよかったのかもしれない。こんなふうに飛び出したりしたら、二度と戻れない気がする。
ううん、もう、戻れなくたっていい。
下向きの矢印のボタンを何度も押して、やっと開いた箱の中に乗り込んで扉を閉めると、追いかけてきた聡の目の前でゆっくりと下降を始めた。
それから、わざといつも通る道とは反対方向に向かって走り、細い路地裏を縫うように進んだ。
聡が追ってきていのかは分からない。
ふと視界に入ったコンビニの光に吸い寄せられるように近づくと、上がった息を整えながら、鳴りつづけるスマートフォンの電源を落とした。