2LDKの元!?カレ
それから私たちは、駅へと向かう。
ル・シエルのある裏路地から大きな通りに出ると、西野くんはさりげなく車道側を歩いてくれた。
「ありがとう」
そういって隣にある彼の顔を見上げる。
可愛らしい中性的な顔は実年齢よりも幼く見えて、どうしても頼りないイメージが払拭できない。
だからこそ彼がそのイメージを裏切る時、思わずドキッとしてしまうのだ。
今夜もそうだった。
「……フランス語、出来るなんて知らなかったな。どこで習ったの?」
「大学で習いました。モード誌の編集に携わりたくて、結構真面目に履修したんです。でもまさか、こんな時に役に立つなんて、考えもしませんでした」
そういって西野くんは笑う。
「おかげで助かったけど……モード誌の編集かあ。ラルゴはリアル・クローズだものね。異動と考えてるの?」
「いつかは、とは思ってますけど今はまだ考えていません。だからこのことは内緒にしてください」
西野くんは人差し指を唇の前にかざす。
「分かった、内緒ね」
私が頷くと、ホッとしたように微笑んだ。
向かうべき目標があるのは、素敵なことだと思う。
もしかしたらそう遠くない未来、モード誌の紙面に西野くんの名前を見つけられる気がする。
やがて駅に到着すると構内で西野くんと別れて、私はひとり山手線のホームで電車が来るのを待った。