私、ヴァンパイアの玩具になりました
ゾロゾロと絵に描いたように綺麗に降りてくるご兄弟の皆さんを見ながら、私はふと思う。
私なんかが…こんなにキラキラしてる方達のそばにいて本当にいいのかな…。
所詮、私はこの方達に血を飲ませるだけの人間なのに…、そんな私がご兄弟の皆さん達のそばにいるなんて事、許されるんでしょうか?
……学園の生徒さんも、なんで私なんかって思ってますし…。
私はせいぜい、この方達の家の外にある犬小屋に住むような小さな存在なのに…。
「優、ボーッとしてどうしたんだよ」
私がモヤモヤと考えていると、藍さんにオデコを人差し指でつつかれた。
「あ、…いえ…、…なんでもないですよ?」
私は藍さんにつつかれたオデコを手で押さえながら、ニコッと無理矢理笑って誤魔化す。
「…お前、どうせまたろくな事考えてなかっただろ」
藍さんの鋭い問いかけに、私の肩が少し震えた。
「そ、そんな事ないですよ?…今日のお食事はなにかなー…と思ってました」
私はえへへ、と小さく笑う。
「食い意地はってるからブクブク太るんですよ」
「…うっ……、すいません…」
途中からはいっていた日向さんの言葉に、またもや私は落ち込む。
「日向、いい加減優さんをからかうのはヤメなさい。度が過ぎてますよ」
「…だーかーら!薫瑠には関係…、…はぁ…はいはいはい…」
日向さんは薫瑠さんに反論するのが面倒くさくなったのか、適当に返事をすると一人でスタスタと長い道を歩き、そのまま家の中へ入って行ってしまった。
薫瑠さんはそんな日向さんの後ろ姿を見て溜め息を吐くと、私に視線を向けて苦笑いを浮かべる。
「優さん、本当にすいません。日向は好きな子程、イジメたくなってしまうので。…決して、優さんが嫌いだからイジメてる訳じゃないんです」
「え…、いや…それは本当に無いんじゃないかと…」
私は薫瑠さんの発言に素早く否定をした。
何度、日向さんに面と向かって嫌いや、大嫌いと言われたか…。
それに、デブとか貧乳とか…。…いや、本当の事なんですけどね…。
とにかく日向さんは絶対に私が好きということは、隕石に足がはえるという事位にあり得ない事なんです…。
「本当に嫌いな人とは関わりもしませんよ」
「…そうだと良いんですけどね…」
私はそう言うと、あはは…、と作り笑いをする。
「まぁ、気にすんなって。…ほら、寒いから早く家に入るぞ」
藍さんは私にそう言って、私の背中を軽く押す。
「わっ……、…あ、はい」
少し前にバランスを崩し掛けて、私はすぐに体勢を戻し、返事をした。
「優のカバン、貸せ。重いだろうから持ってやる」
「え!?そんな…、良いですよ!私、これくらい持てますよ?」
「いいから、素直にお礼でもいってろ」
藍さんに突然、カバンを取られた私は飛び跳ねて、藍さんから自分のカバンを取り返そうとしたけれど。
「……よっ……っう……」
…どんなに飛んでも、かすりもしないどころか、藍さんの頭にでさえ伸ばした手が届かないです…。
「………藍さん、ありがとうございます」
身長差的に無理だと思った私は藍さんに言われた通りに素直にお礼を言う。
「あぁ」
藍さんは短く返事を返すと、家の中に入っていってしまう。
残された兄弟の方逹と私は、藍さんに続くように家の中へ入った。
「「お帰りなさいませ、那崎様。神咲様」」
家の中に入ると入り口付近にいたメイドさんと執事さん達が、私達に頭を下げる。
「た、ただいまです!」
私が挨拶を返すと兄弟の方達もメイドさんと執事さん達に挨拶を返す。
その後、皆さんはそれぞれ各自の部屋に戻ったり、外へ出たりと自由に行動をはじめた。
私は自分の部屋へ戻り、軽装に着替えると机へ向かう。
「…今日の復習です」
王神君にとっといてくれたノートをカバンから取り出して、ノートを開いた。
「……………!」
ノートを開いてすぐに私は目を見開く。
凄い綺麗な字…。とても見やすいノートです…。
このノートを二冊、同時に?王神君のノートと私の為にとっといてくれたノート…。
凄いです…。さすが王神君…。
これはお礼をしなければいけませんね…。
「でも、お礼と言っても…どんな…」
…復習が終わってから、ゆっくり考えた方が良さそうですね…。
その方が良い考えが出てきそうです。
「うぅーん………」
私は腕を上で組んで、背筋を伸ばす。
「……ふぅ………」
一日、学園を休んじゃってるんです。…周りとの遅れを戻さないとです…。
そう思った私は、長い髪の毛を軽くゴムで結ぶと勉強に取り組んだ。