私、ヴァンパイアの玩具になりました
「……はい………?」

「本当に友達、いんのか?」

嶺美さんの問いかけに、私の思考は一瞬止まってしまう。

怒られなくて良かった、と思う反面。

無意識に遠ざけていた触れてほしくない話題にまた身体が強ばる。

「…あ、…后王神君という友達がいます」

友達、そう聞いて私は王神君しか出てこなかった。

「…それ以外は?」

「…翔君、裕君、愛希君とかですかね…?」

首を傾げて、私は嶺美さんの問いかけに答えた。

…愛希君は少し曖昧ですが…。

多分、愛希君にとって私は、友達でもなんでもないような気がします…。

「…んなもん、一緒に住んでたら友達というより同居人だろ。…俺が聞いているのは同性の友達だ」

「………いません」

「……友達、ほしくねぇの?」

「…そんな事ないです。…私は高校生になったら、友達を沢山作って、お話しして、一緒に遊んで…。…友達の家にお泊まりしたりして…、思い出を作りたい…と思ってましたから…」

私は中学生の時に夢見ていた事を無理矢理笑顔を作りながら嶺美さんに話した。

「じゃあ…」

「でも…」

嶺美さんと私の声が重なる。嶺美さんは、一旦話を止めると、なんだ?と聞いてくれて。

私は本当はしたくはない話を続けることにした。

「…でも…、クラスの女の子達は多分、私の事が嫌いです…。…キラキラしているご兄弟の方達と私みたいな地味な女の子が一緒にいるのでクラスの女の子達は怒っていると思います…」

「………ふーん…」

「…でも、王神君はそんな事を気にもせずに私と友達になってくれたので…。今は友達は王神君で十分、私は満足しています」

「……あっそ…」

嶺美さんは興味がないのか、素っ気なく返事を返す。

そんな嶺美さんの態度をみて、少し苦笑いをこぼすと私は、一つの疑問を持つ。

「………あの、なんで私に友達のことを聞いてきたんですか?」

「………別に、ちょっと…し…」

「し…?」

「………な、…なんでもねぇ……」

「そうですか…、なら良いんで…」

私が話してる途中でリビングの扉が突然、大きな音をたてて開いた。

肩がビクッと震わせてから、私はリビングに入ってきた人物をみる。

「嶺美兄ちゃん!…藍兄ちゃんが!!」

リビングに入ってきたのは翔君。いつもとは違う雰囲気の翔君に私と嶺美さんは?マークを浮かべる。

「……藍がどうしたんだよ」

焦っている翔君とは真逆の冷静な対応をとる嶺美さんは面倒くさそうに翔君へ視線を向けた。

「部屋から出てこない!…ご飯いらないって!」

藍さんが部屋から出てこない…?……どうしたんでしょう?…具合でも悪いのでしょうか…。

「……だからなんだよ」

嶺美さんは至って普通に返す。そんな嶺美さんの態度に翔君はちょっと戸惑ったのか表情が少し固まる。

「…え?……ご飯食べないのはダメだから、嶺美兄ちゃんも藍兄ちゃんを部屋から出すの手伝って…言おうとしたんだけど……」

「ほっとけば良いだろ。無理矢理食わせても良いことねぇぞ」

「……でも…、身体に悪いよ?」

「どうせどっかの女の家に行って食ってくるだろ」

「え……」

嶺美さんの言葉に思わず小さく声をもらしてまう。

幸い、誰も私の声には気づいていなかった。

「………………?」

ズキンと痛み始めた胸を押さえて、私は首を傾げる。

……他の女…、そう聞いただけで心臓が痛くなりました…。

………どうしたんだろう、私…。どこか悪いのかな…。……病院行った方が良いかもしれませんね…。

ズキンズキン…、止まない痛み。

「藍兄ちゃんはそんな事しないよ!」

翔君は嶺美さんの発言を否定したけれど。私の胸の痛みが引くことはなかった。

「…あっそ、でもほっとけよ。…あまりしつこいと怒られるぞ、藍に」

「……はーい…。…そうそう、藍兄ちゃん以外の皆、もう少しでくるよ!」

「あっそ。…おい、バカ、席戻れ」

「…………あ、はい」

私が返事をして席を立った瞬間、藍さんを抜いた皆さんがリビングへ入ってきて、それぞれの席へと腰掛ける。

「すまんね。藍を説得していたら遅くなってしまった。結局、藍はご飯を食べないそうだ」

おじさんはそう言って苦笑いを浮かべた後、メイドさんと執事さんを呼んだ。

「…そうですか…」

私は聞こえるか聞こえないかの声でボソッと独り言のように呟いた。

数分もすると、私達の前にはご飯がならべてあって。

「では、いただこうか」

おじさんの一声で私達は手を合わせて、いただきます、と声を揃えて私達はご飯を食べ始めた。
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