私、ヴァンパイアの玩具になりました
そう思ってしまった途端に、こみ上がってきた涙をグッと堪えて、私はゆっくりと口を開く。「…すいま…せん……っ…」
私は早口に謝ると背中を向けて早足で歩きだす。
ポロッと流れた涙を拭かずに、私は扉の前まで行くと深呼吸をする。
今、涙を拭いたら藍さんに泣いてるって気づかれるかもしれません…。
「……ぇっと……、…その……っ…」
「…優、…泣いてんのか?」
藍さんの鋭い指摘に、私の肩はビクッと震えた。
「……ま、…まさか…。……凄い笑顔です…」
えへへ、と私は扉に向かって力無く笑う。
「……なら、こっち向いて凄い笑顔見せろよ」
「………………」
私は藍さんの言葉を聞こえないフリをして扉を開けた。
「優」
少し強めに藍さんは私の名前を呼んだ。
「……………っ…」
それでも私は頑なに顔を向けようとしなかった。
あと少し…、あと少しで止まる涙。
だけど…。
「こっち向けよ」
藍さんは後ろから手を伸ばし無理矢理、扉を閉めると私の事を追いつめる。
気が付けば私は藍さんに背中を向けたまま、その場から動けなくて、逃げられない立場になってしまった。
「…藍さん…、さっき…私に近寄るなって言ったのに…なんで藍さんが近寄ってきてるんですか……?」
逃げられない、そう諦めてしまった時、私の口から出たのは自分でも初めて聞くぐらいの冷たい声に言葉。
「…あれは…」
私の言葉に藍さんが困っている声を聞いて、私の心臓はグッと締め付けられる。
「……私の事が嫌ならハッキリ言って下さい…。…藍さんが離れろ、と言うなら私は……素直に離れます…」
…こんな心にもない事を言って、傷つくのは私なのに…。
「…違う。話をちゃんと聞け…」
「……何が違うんですか…?」
「…お前、少し勘違いしてるんだよ」
藍さんの言っている事が分からなくて、私は首を少し傾げた。
「俺がお前の事嫌いだから離れろって言ったんだと思ってるだろ…」
「…だって…、その理由以外…」
ないじゃないですか、と言おうとしたら藍さんは短く溜息を吐いて。
そして、クスッと笑う。
「……ほら、やっぱり勘違いしてた」
「………ぇ…?」
藍さんはそう言うと、私の事を後ろから優しく抱きしめる。
急な出来事に私の心臓はドキッと飛び跳ねて、激しい鼓動を打ち始めた。
「俺が離れろって言った理由は……。…お前の血がすげぇ飲みたかった…。…でも、今、近くに来られたらお前に何するか分からなくて不安だったから…離れろって言ったんだよ」
藍さんの甘くて低い声は、私の心のモヤモヤを全て無くしていく。
「……そう…だったん…ですか…?」
自信なさげに私は藍さんに問いかける。
「あぁ」
藍さんは私の問いかけに短く答えてくれた。
…私、藍さんに嫌われてなかったんですか……。
ということは、今までのは全部私の勘違い…だったんですね…。
それだけの事が分かっただけなのに…、私は今、嬉しくて凄い…泣きそうです。
飛び跳ねて今の喜びを表したいくらいに…。
藍さんに嫌われてなかったという事がとても嬉しいです…。