私、ヴァンパイアの玩具になりました
「────ん…。……やっぱり、…優の血はうまいな…」
藍さんはそう言って、私の後頭部を優しく撫でてくれる。
「………………」
何て返せばいいのか分からなくて、ただ藍さんに後頭部を撫でてもらいながら、私は無言のままでいた。
「………優……」
「…………はい…」
突然、少し低い声で藍さんが私の名前を呼んだ。何を言われるのかとビクビクしていたら、藍さんは私を太ももからおろして私と目を合わせた。
「……優は、…ここにいて…後悔してねぇか?」
「…え?」
シーンと静かな藍さんの部屋の中が、さらに静まり返る。
「………俺達、兄弟に毎日毎日、血飲まれて…辛くないのか?」
藍さんが私に聞いてきたことは、予想外の事過ぎて一瞬私の思考は止まってしまう。
私はすぐに何かを言わないと、と思い口をゆっくりと開く。
「……全然辛くないですよ?………それに私はご兄弟の方達皆さん、優しいので大好きです。……私なんかに優しくしてくれてるので、血を飲まれる位、もう大丈夫ですよ?…痛みにも段々慣れてきましたし!毎日、楽しいです!」
辛いと思った事は本当になくて。
むしろ、皆さんは優しいから毎日、一緒にいて…、一緒に過ごすのが本当に楽しいから。
こんなに楽しい毎日が送れるとは、昔の私は思ってもみなかった位。
「……本当か?」
藍さんはまだ少し信じていないのか、今までみたことがないような程の真剣な目で私の目を覗き込んだ。
「はい!本当です!」
私は本当に楽しいと思っている、ということを藍さんに証明するように、ニコッと笑う。
「………お前って本当に…、バカだな」
一瞬、目を見開いたあと藍さんはクスッ、と笑った。
その姿は凄い格好良くて。少しの間、藍さんに見とれていた自分がいた。
「…………、……え!?」
「反応おせぇよ」
「す、すいません…」
藍さんは私の遅すぎる反応をみてまた笑った。
そんな藍さんをみて、私もつられてクスッと笑う。
何気ないこの瞬間、心から凄い幸せだと思う。
そんな時、藍さんの笑顔をみながら私はふと思った。
この幸せはいつまで続くんでしょうか…。
いつ…、壊れてしまうんでしょうか…?
こんな事考えても答えは出ないって分かってるのに…。
………こんなに幸せだと感じてしまったら、…嫌でも考えてしまいます…。
「……余計な事考えんな」
「…え…?」
「お前、顔に出過ぎなんだよ。…お前が余計な事考えてる事くらい分かるんだよ」
「……ら、藍ひゃん…、痛いれす…」
藍さんはベットから立ち上がって私の近くまで来ると、私の頬を軽く抓る。
「…お前に暗い顔は似合わねぇんだよ…。いつも通りバカみたいに笑ってろ」
「……は、はい…。……ありがとうございます……」
私は藍さんに抓られた頬をさすりながら、小さく笑った。
「別に…。………もう遅いから部屋まで送ってやるよ」
「え?…い、いいですよ!…階段あがって部屋に戻るだ…」
「だけ、とか言っておきながら、転ぶ可能性が高いのがお前だろ。…危険だからって事だよ」
「…うっ……。…すいません……」
「ほら、行くぞ」
「あ、はい」
藍さんに手首を掴み、藍さんは私を引っ張って私の部屋まで送ってくれた。
「……早く寝ろよ」
「はい!…送ってくれてありがとうございます!」
「…あぁ…」
「お休みなさいです!」
「…あぁ」
藍さんは短く返事をすると、ゆっくりと扉を閉めた。
薄暗い部屋の中を歩き、ベットの近くまで行くと、ベットにボフッと倒れ込み、すぅ…と深く息を吸って目を閉じる。
そのまま規則的な呼吸を続けて、私は眠りにおちていった。