私、ヴァンパイアの玩具になりました


日向さんはヴァイオリンを弾き終わると、はぁ…と溜息を吐いた。

そして、トスンと私の隣に座って不機嫌そうにボソリと呟く。

「これで満足ですか…」

私は拍手を沢山すると、ニコッと微笑んだ。

「はい!とても満足です!日向さんはヴァイオリン、すごいお上手なんですね!」

「そりゃあ小さい頃からやっていれば誰でも上手くなりますよ」

持っていたヴァイオリンを日向さんは、自分の隣に置くと、また短く溜息を吐いた。

「えぇ!?そんな事ないですよ?日向さんにヴァイオリンの才能があったから、こんなにもお上手になったんです!」

「…はいはい、そうですね」

日向さんは私の言葉を聞いて、そっぽを向くと棒読みで答えた。

う…、適当に返されちゃいました…。

少しの間ショボンと落ち込んでいた私と、ジーッと空の月を無言で見ている日向さんとの間に沈黙が続く…。

かと思いきや、日向さんは急に口を開いた。

「…それで?」

「へ?…な、なんですか?」

「満足したんですよね?」

少し強めの口調と、フッと緩んでいる口元。

「…は、はい…」

あ、…あれ?…日向さんが何かを企んでいるような表情をして…?

「じゃあ僕が満足する事をしてくださいよ」

「…それは…、…簡単に言いますと?」

「血を飲ませろと言うことです」

スッと私の首筋に日向さんが人差し指でさした。

「…ですよね…」

私はあはは…、と力無く笑う。日向さんはそんな私を見て、私の髪の毛に指を通す。

「…はい。いい加減、ヴァンパイアの俺達と住んでいるという事を自覚してください。…そしてアナタが何故、ここにいるのか…それを考えればすぐに分かることです」

「はい…、…そうですよね…。……すいません…」

私が小さな声で謝ると、日向さんはニコッと微笑んだ。

「偉いですね」

「…へ?何がですか?」

「アナタがです。口答えせずに謝る事を覚えたじゃないですか。せっかくなので褒めてあげます」

「…あ、…そういう事ですか…。…え…、あ…ありがとうございます…」

日向さんは私の頭を優しく撫でる。そんな日向さんを私はチラッと下から覗くようにみた。

そんな私の視線にはニコニコと微笑んでいる日向さん。

いつもと様子…、というより雰囲気が違う日向さんに少し戸惑っている私がいた。

…私の頭を撫でるなんて…、いつもの日向さんでは考えられないです…。

「「………………」」

日向さんは撫で終わると、私の首筋に冷たくて細い指を這わせる。

突然の事にビクッと私の身体が震えると、日向さんは私の腰に手を当てて自分の方へと近づけた。

「…アナタの血なんか飲んだら、バカがうつります…。…ですが、……バカがうつる方がマシです…」

そして私の首筋に触れるだけのキスをしてから、そのままの体勢でボソッと話す。

「んっ…、……日向…さんっ…、くす…ぐったい…ですっ…」

小さな抵抗として、日向さんの胸を押したけれどビクともしなかった。

「……でしょうね…。わざとですから…」

日向さんはそう言うと、私の首筋に牙をたてて血を飲んだ。

痛い、…そう思ったのはほんの一瞬で。

日向さんは薫瑠さんと全く同じで、血の飲み方が丁寧で、とても優しかった。

意外、そう思うのは失礼かもしれませんが、本当にビックリです…。

「……っ…ん…」

首筋に痛みという痛みはないけれど、身体を流れる快感というものは私の頭をクラクラさせる。

身体が火照って、すごい暑い…です…。

それは多分、夏に近づいているからだと私は日向さんに血を飲まれながらそんな事を呑気に考えていた。
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