私、ヴァンパイアの玩具になりました
「───……んっ…。…………」
日向さんは私の血を飲み終わると、そのまま無言で私の後頭部を撫でる。
日向さんの大きくて少し冷たい手が心地よくて、私は日向さんの胸の中でウトウトし始めていた。
「…BC優さんの血を飲んでしまったので、僕もバカになってしまいますね」
「……す、すいません…」
ウトウトしていたせいで、いつもより言葉の意味を理解するのに時間がかかる。
「……でも、もう僕はバカで良いんです…。じゃないと…、あり得ませんから…」
日向さんは独り言のようにポツリと呟いた。
「…何があり得ないんですか?」
「バカに何を言っても無駄ですよ」
そう言って日向さんはゆっくりと優しく私の頭を撫でてくれる。
「……うっ…、はい……」
嫌味を言われている筈なのに、何故か私の頭を撫でてくれている日向さんの手はとても優しくて、心から安心できた。
そんな事を考えていると、日向さんは小さく溜息を吐く。
「…と言っても、僕もバカなんですけどね」
「え…、日向さんはバカじゃないですよ…?」
日向さんが仮にバカだとしたら…私は一体何なんでしょうか…。
…この世にある言葉じゃきっと表せれない程のバカなんでしょう…。
そう考えたら少し泣きたくなるのは…、多分、本当の事だからですよね…。
「アナタに慰めみたいな事を言われてもちっとも嬉しくないです。むしろ不愉快ですよ」
私がズーンと落ち込んでいる時に日向さんのトドメの一発。
「それに僕はバカですが、アナタみたいな本物のバカではないんです」
私の言葉を聞いて、日向さんは私のオデコをツンと突っついた。
「そ、…そうですよね……」
私は突っつかれたオデコを押さえてえへへ、と小さな声で笑う。
……確かにバカな私からそう言われても、少なくとも嬉しくはないですよね…。
「…はい。だって僕はアナタが大嫌いですから。…アナタとお話なんか本当は嫌で嫌で仕方ありません」
日向さんはそう言いながらニコニコと微笑む。
日向さんの微笑みは本当に優しくて、温かいのに…。言葉が微笑みを上回る位にとても冷たくて泣きそうです…。
「…そ、そんなに嫌なんですか…」
「はい、勿論嫌です」
キッパリと笑顔で答える日向さんを見て、私は段々と気分が落ち込んでいく。
「そ、……そうですか…」
「はい」
日向さんの即答に、既に折れかけている私の心は、後少しの衝撃でもポッキリいきそうです…。
そんな時、少し日の出が出てきて明るくなってきたのを、日向さんは確認するように見る。
「…ではもうそろそろ皆が起きる時間なので、中に入りましょうか」
「あ、もうそんな時間でしたか…」
「はい。丁度、薫瑠も起きて花に水やりをしています。恐らく今はもう六時近くでしょうね」
日向さんは屋根の上から下を見て呟くように言う。
私は日向さんの言葉に続いて、屋根の上から下を見た。
すると日向さんが言った通り、薫瑠さんが一人で一輪一輪丁寧に花に水やりをしている姿が見える。
「……凄いですね…。そんな事まで分かるんですか…」
「……これでも一応僕達は双子ですからね。…といっても、本当は薫瑠がいつも花に水やりをする前に起きてるだけなんですけどね。……だから分かるんですよ。薫瑠がいつ起きて外に出るか。…薫瑠は毎日ほぼ同じ時間に起きて同じ時間に家を出ます」
そう言いながら日向さんはヴァイオリンを片手に持った。
「……日向さんって薫瑠さんの事をよく理解しているんですね…。…凄いです」
「そりゃあ産まれる前から一緒にいたら嫌でも大体の事は分かりますよ」
「そ、そういうものなんですか…?」
「そういうものです。…薫瑠が近くに来たので薫瑠の事を呼びましょうか」
「はい!」
「……薫瑠ー!」
薫瑠さんは日向さんの声に気付いたのか、視線を日向さんの方へとうつす。薫瑠さんは私と日向さんの存在に気づいてニコッと微笑んだ。
その後すぐに私と日向さんは屋根から降りる。
そして薫瑠さんの元へ駆け寄り、文句を言う日向さんと薫瑠さんのお手伝いということで三人で花に水やりをした。
一通り終わった事を確認すると、私達は家の中へ戻った。