私、ヴァンパイアの玩具になりました
少し遅れて、お迎えの車の中に入ると何故か愛希君だけがまだ車に乗っていなくて。見落としかな?と私は何度も車の中をチラチラと見渡す。

…見落としではないようです…。愛希君は車の中にいません…。

「…あの…愛希君、まだ来てないんですか?」

不思議に思った私は皆さんへと聞いた。

…だって、私達より早く教室を出たのに私達より遅いなんて事は…あり得ないというか…考えにくいです。

…何かあったんでしょうか…。

「んぁ、愛希、一人で帰るってよ」

私の問いかけに藍さんは欠伸をしてから教えてくれた。

一人で帰るですか…、やっぱり何かあったんですかね…。胸がモヤモヤします。

…多分、愛希君に避けられていると確信を持ちはじめたからです…。私はまた、気づかないうちに愛希君を…、人を傷つけたんですかね…。

「そう…ですか」

「優、どうしたのー?さっきから元気ないねー?」

車が動き出すと同時に、翔君は私の目の前で手をヒラヒラと動かす。

「へ?…あ、…お…お腹が空いてしまって…」

あ、しまった…そう思った時にはもう既に遅くて。

「なら僕のパンあげるよ!」

そう言って翔くんは、私に美味しそうなメロンパンを渡す。

「あ、…ありがとうございます」

せっかく私の為にパンをくれたのに食べないのは、とても失礼ですよね…。

そう思って、私は翔君から貰ったメロンパンにかぶりついた。

メロンパンをかぶりついた瞬間、甘くて柔らかい香りが私の鼻を通る。

こ、これは…お腹空いていなくても、パクパクいけますね…!

と、思ったのもつかの間。

メロンパンの半分を食べ終わった頃位には、私はお腹がいっぱいで苦しくなってしまった。

「…っ………、も、もう食べれません…。…残りは後で食べさせていただきますね…」

私は、残りを食べるのを諦めてメロンパンをカバンの中にいれる。

「もうお腹いっぱいになったの?早いねー」

半分しかメロンパンを食べていない私をみて、翔君は少しビックリした表情で私を見た。

「はい…、せっかくくれたのにすいません…」

お腹いっぱいではなかったら、もっと食べれた筈なんですが…。

さすがにお腹が空いてない時に、メロンパンを全部食べるのは無理だったようです…。

「いいよ!いいよ!気にしないで!お腹いっぱいになったなら、良かった!」

私が謝ると翔君はそう言って、ニコッと優しい笑顔を浮かべてくれる。

「ありがとうございます…」

私は翔君にお礼を言って、力なくへラッと笑った。翔君は、何故か突然動きを止める。

「…翔君?どうしたんですか?」

不思議に思った私は、翔君の顔の近くで手を振りながら声をかけた。

私の声にハッとなった翔君。チラチラと左右を見渡して、車の窓に向かいあった。

「……あ!も、もう家つくね!」

翔君は何かをはぐらかすように、その場から立ち上がり車の窓の近くに行き、小さく見える家を指さした。

そうだな、と藍さんが言うと立ち上がっている翔君の首根っこを引っ張って無理矢理、椅子に座らせる。

家に着き、私が車を降りてる時にちょうど愛希君は家の中に入る所だった。

私は愛希君に話しかけるために愛希君の元へ近寄る。

「愛希君!おかえりなさいです!」

「………………」

愛希君は私の事を無視して行くと、そのまま家の中へ入っていった。

そんな愛希君の後ろ姿を私は見るだけしか出来なかった。

「愛希、どうしたんだろうな」

「藍さん…」

「愛希、最近、お前だけ異常に無視してるよな」

「……はい…」

やっぱり、他の人から見てもそう見えるんですね…。

他の人にも分かる程、愛希君が私を無視するのは何故なんでしょうか…。

「喧嘩でもしたのか?」

「喧嘩だったら良いんですけどね…。喧嘩をしたなら何が理由なのか分かりますから…。でも、喧嘩ではないので理由が分からなくて…。…でも、多分、私がまた何かしてしまったからだと思うんです…」

あれこれと理由を考えて、私は小さくため息を吐いてしまう。そんな私の頭を藍さんが優しく撫でてくれた。

藍さんのそんな優しさに思わず、堪えていた筈の涙が出そうになる。

「…そうだとしても、あんま自分を責めん…」

「優ー!早く入ろうよー!」

「わっ………!」

藍さんが話している途中で、背中に突然衝撃がきたと思ったら、後ろから翔君が私に抱きついてきた。

「ゆーうー!入ろー!」

「は、はい…!」

私は返事をしてから、藍さんへ視線を向ける。

「ら、藍さん、ありがとうございました…!」

「あぁ」

私がお礼を言うと、藍さんは呆れた様に微笑んむ。私は藍さんに小さく微笑み返してから翔君に押されながら家の中へと入っていった。
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