私、ヴァンパイアの玩具になりました
「……おい、バカ」
頭上から聞こえる聞き覚えのある声。
そして、私の事をバカと呼ぶのは一人しかいない。私はゆっくりと顔をあげる。
「…れ、嶺美…さん…?」
視線を向けた先には、私の予想がピッタリと当たった嶺美さんがいた。嶺美さんはいつも通り、首にヘッドフォンをかけて眠たそうにしている。
今は体育祭練習期間の筈なのに、嶺美さんは制服だった。
………それは今は関係ないとして…、なんでこんな所に…嶺美さんが……?
「……あの…、なんで…ここに……」
私が素朴な疑問を嶺美さんにぶつけると、嶺美さんは私の隣に腰掛ける。そして面倒くさそうに嶺美さんは口を開く。
「…………練習とか面倒だから、逃げてきた。……ていうか、バカはなんでここにいんだよ」
「…あはは……、ちょっと…閉じ込められてしまって…」
本当は理由を聞かれたくはなかったけれど、聞かれない筈もなく…。
嘘ついても意味がないと思った私は、嶺美さんに何故ここにいるかを言う。そしてすぐに、私は俯いてさっきまで流れていた涙を拭った。
「ふーん…、じゃあ今ここには……、…俺達二人しかいないのか……」
何かを思ったのか嶺美さんは私の言ったことに触れず、今の状況を私に確かめるように言った。
「……そういうことに…なりますね……」
「「………………」」
私の言葉を最後に無言になる私と嶺美さん。その間、私はどうやって帰ろうかと悩んでいた。
どうしましょう…。…私には連絡手段もなく…、かと言って鍵は女子三人が持っていて…。
幸いな事に嶺美さんがいるので、もう一人は怖くないんですが…。
「…あの、嶺美さん…」
「………なに」
「…携帯電話、ってありますか?」
私は僅かな希望を信じて嶺美さんに聞いた。嶺美さんは少し間を置いて口を開いた。
「………カバン」
「……そ、そうですか…」
連絡手段がないことが分かり、私は肩を落とす。体育館倉庫の中が暗くなってきた頃、私は嶺美さんの方へ視線を向ける。
タイミングが重なったのか、嶺美さんと丁度目が合う。だけど、嶺美さんはすぐに私との視線をそらし、ヘッドフォンを首から外した。
「なぁ……」
「はい、なんですか…?」
「腹減った」
「は、はぁ…。…残念な事に私、今、食べれるような物を持っていない…です」
念の為に、ジャージのポケットを軽く叩いた。でも、悲しい事に飴一粒も入っていなかった。
「はぁ……、ここに来い…」
嶺美さんは深い溜息を吐くと、嶺美さんの足の間を指さした。
「…そ、そこですか?」
「……早くしろ、バカ」
「…え、…あ…すいません……」
私は嶺美さんに謝るとすぐに立ち上がり、嶺美さんに背を向けて嶺美さんの足の間に腰をおろした。
すると、嶺美さんは私が着ている体育のTシャツをずらし私の首筋に口元をくっつけた。
でも、嶺美さんは私と自分の距離が気に食わなかったのか、私のお腹に腕を回してグイッと自分の方へと私を引き寄せる。
それから嶺美さんは私の首筋に牙を刺すと、ゆっくりと血を飲んでいった。
「……う…っ…」
首筋に少し痛みが走り逃げようとしたけれど、嶺美さんにお腹に腕を回されているせいで身動きがとれなく逃げることは無理だった。
「おい、逃げんなよ……」
「…ごめんなさっ……ひっ…」
私の首筋を舐めて、嶺美さんはクスクス笑う。
「………もっと聞かせろよ。…お前の声……」
私の耳元で囁くように言った後すぐに、嶺美さんは私の首筋により強く噛み付いた。
「……い…っ!」
ビリッときた首筋の痛みに私は声をあげる。痛みと快感のせいで力がなくなっていく私にはもう逃げるという手段はなくて、嶺美さんに血を飲まれていた。