私、ヴァンパイアの玩具になりました


「───んっ…」

嶺美さんは私の首筋から口を離すとギュッとお腹に回していた腕で力強く私を抱きしめた。

「「……………」」

何も話そうとしない嶺美さんに話しかけるのは迷惑だと思った私は嶺美さんに合わせて無言のままでいた。

…って、このまま無言だと帰る方法がないまま数日間が経ってしまいます…。

「……あ、の…嶺美さん…」

「……んー……」

気の抜けた声で嶺美さんは返事をした。私は苦笑いしてから気を少し抜いて嶺美さんに背中を預けて座る。

「……どうやって帰りましょうか…」

「…帰らなくても良いだろ」

面倒くさそうに嶺美さんは答える。

「……だ、ダメですよ…?……嶺美さんが帰ってこなかったら皆さん心配してしまうじゃないですか……」

「………はぁ…」

嶺美さんは深い溜息を吐くと、また私の首筋に口をつけた。

また痛みがくると思い、私の身体は無駄に強ばる。

でも、いつまで経っても首筋に痛みはやってこなかった。不思議に思って後ろを向くと、嶺美さんは少し微笑んだ。

「……力、……抜け…」

私は小さく返事をすると、言われた通りに身体の力を抜いた。

私が力を抜いたのが分かると、嶺美さんは私の優しく頭を撫でてから首筋にキスをする。

「んっ………」

くすぐったくて笑っていると突然、ピリッとわずかな痛みが首筋を走る。

何が起こったか分からなかったけれど、どうやら血を飲まれたわけではなかった。

い、一体…な、何をされたんでしょうか……。首筋には痛みというより…、何故か少しかゆいです…。

「………ほら、立てよ」

その後、嶺美さんは満足したのか急に立ち上がり私の腕を引っ張り立たせる。

「え、あの……」

「…帰るぞ」

嶺美さんの発言に思わず目を見開く。

「……で…でも、鍵かかってて出られないんです…。…それに鍵、持ってないです……」

「……鍵なんていらねぇよ」

そう言うと嶺美さんはドアの前に立った。すると、何故か鍵がガチャ──と音を立てて開いた。

「…………え?」

「……あれ、バカ知らなかったのか…?俺達兄弟は鍵なんて開けたり締めたり出来んだよ、…獲物を逃さないようにな」

「………あ!」

どこか聞いたことのある言葉で、私は頭を悩ませる。そして誰が言っていたかを思い出す。

そう言えば…薫流さんがそのような事を……。……ではなくて…!

「な、なんで早く出してくれなかったんですか…!」

体育館倉庫のドアを開けて出て行こうとする嶺美さんの腕を掴んだ。そんな私を嶺美さんは鼻で笑う。

「……お前、やっぱりバカだな」

「…え、…え!?」

突然のバカ呼ばわりに私は声をあげる。

「……普段、邪魔するやつがいなくてお前と二人になれるチャンスねぇのに簡単に逃す訳ねぇだろ。……例え、今日、体育館倉庫に俺じゃないアイツら誰かだとしても…確実に俺と同じ事する」

そう言うと嶺美さんは体育館倉庫から出てすぐに、体育館倉庫のドアの鍵を締めた。

「……………」

私は言い返せるような言葉が見つからず、歩き出す嶺美さんに無言でついて行った。

その後、お互いのクラスへカバンを取りに行ってから連絡をしようと嶺美さんはズボンのポケットから携帯を取り出した。

「………嶺美さん!」

「…なんだよ」

「携帯、カバンじゃなくてズボンに入ってたんじゃないですか!」

「………い、…今思い出したんだよ」

「……絶対嘘で…」

「あ、やべ…連絡数が……」

私の言葉を遮るように嶺美さんはわざとらしく携帯を見ると、誰かに電話をかけ始めた。

「…俺。……あぁ、優もいる…。……少し遊んでただけだよ。…うるせぇな…嘘じゃねぇって。…はぁ……今から帰る」

嶺美さんは一方的に電話を切ると、カバンを肩にかけると私の方へ視線を向けた。

「…帰るぞ。……アイツには遊んでたって言えよ」

教室から出ると、嶺美さんは私に合わせてくれているのかゆっくりと歩く。

廊下には私と嶺美さん二人の足音が響きわたる。

「…アイツ……とは?」

「………俺の親だよ」

「あ、…おじさんですか…。…わ、分かりました」

「…本当の事言っても、……互いに得はしねぇだろ…」

「…そう、ですね」

これは多分、嶺美さんなりの優しさなんです…よね…。私の勘違いかもしれませんが…でも、……多分…そうですね…。

学園から出ると外は真っ暗で、家へ帰った時にはもう八時を超えていた。

< 121 / 122 >

この作品をシェア

pagetop