私、ヴァンパイアの玩具になりました
「…お父さん。日向を連れてきましたよ?」

「え……、あ、あぁ……。ありがとうな…」

おじさんは、ビックリしすぎていて、表情が固まっていた。

「いえ。どういたしまして」

薫瑠さんは、ニコッと、笑って日向さんの背中を押しておじさんに渡した。

「で?なんで、僕はこうなってるの?背中を思いっ切り蹴られて気失っていたら縄で縛られていたんだよねー…。迂闊だったよ……。いつもなら、全然気付いて返り討ちに出来てたのにさ………」

日向さんは、自分の状況があまりよく分かっていないらしく、アハハと、柔らかい笑みを浮かべている。

そんな日向さんとは真逆に、私達三人の表情は固まるばかり。

「…薫瑠…、お前一体なにして……」

「………………?だって、お父さんに日向を連れて来いって言われたので…」

薫瑠さんは、笑顔のままパンパンッと手を叩く。

「……あの、な?…助かったんだが、…ちょっとやり過ぎ…っていうか…。限度がある…と言うか」

おじさんが、苦笑いしながら縄を掴んだ。その時、日向さんが、うっ……と、小さなうなり声をあげた。

意外と、縄で縛られると痛いらしいですね…。

「…………………」

薫瑠さんは、おじさんの言うことに反論も何もせずに、ただ静かにおじさんの言うことに耳を傾けていた。

「……あー…、えっとな……」

おじさんは、薫瑠さんの反応に少し戸惑っていた。

「…じゃあ、今度からは眠らせるだけにしますね」

「いやいや!そうじゃなくて…、……このやり方は、薫瑠らしくないぞ?」

おじさんが、薫瑠さんの顔色を見ながら、少し聞き取れるくらいの声を出した。

「………そうですか?」

「あぁ。いつもなら、そんなことをしなくても、普通の日向のまま連れてこれてたよな?」

「……普通の日向ですよ?…そうですよね?日向」

薫瑠さんは、縄を解こうとしている日向さんに話しかけた。

「……え…?…んー……。いやー、後ろから殺気感じて振り返ろうとしたら、蹴られた。…いつもなら、優しい声で声かけて連れてかれたけど…」

あれは、痛かった…と、日向さんがクスクス笑っていた。

「………殺気…だっていた…。……薫瑠、お前、今日は機嫌悪いのか?」

おじさんが、優しい声で薫瑠さんに話しかけた。

「いえ。そんなことは。…ただ、今日、日向の背中を見たら蹴りたくなりまして…」

ごめんなさい…と、薫瑠さんは日向さんに謝った。

「ん?別に気にしないでいいよ。小さい頃、僕、薫瑠によく酷いことしてたし。その頃の復讐だと思うことにするから」

日向さんは、薫瑠さんの肩をポンポンッと、叩いた。

あ、あれ?縄から脱出?

「…お前!いつのまに、脱出した!」

おじさんが、日向さんのことを縛っていた縄を手に持ちながら、日向さんに怒鳴る。

「だって僕、こういうの慣れてるからね」

え?え?……慣れているからね……?

「……お前…、…………」

おじさんが、日向さんのことを哀れな目で見つめていた。

「待ってよ。父さん、僕はドMじゃないよ?…ただ、こういう場面を何度も見てきてるからね。何となく、脱出の仕方が分かっちゃったんだ」

「……お前…、普段一体なにしてるんだ…」

「ヒミツだよ」

日向さんが、ウィンクをする。すると、おじさんが日向さんの頭を一発叩いた。

「いったーー!!」

「…はぁ……。コイツは、後で私の部屋で五時間正座の刑だな……」

「えー!!!嫌だ!!なんで、正座しないといけないのさー!僕、なにもしてないよー!」

日向さんは、頭を優しく撫でながら、おじさんに言葉反撃した。

「…病み上がりの優さんに、変なもの着せやがって!これのドコを見たら、なにもしてないよー!だ!バカじゃないのか?!お前は!」

おじさんは、ふざけている日向さんに、顔を真っ赤にして怒った。

「父さん?顔、真っ赤!…そんなに僕が格好いいの?」

日向さんは、怒っているおじさんの頬をツンッと、突っつく。

「…お前は!!!ふざけるのもいい加…」

「あー……。ハラ減ったー………。………どうしたんだ?そんなに親父怒って…」

おじさんの怒りがピークになった時。藍さんが、欠伸しながらリビングに入ってきた。
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