私、ヴァンパイアの玩具になりました
「……僕は誰が優の友達になるなんて、どうでも良いんだけど。…でも、…王神はダメ。……僕のワガママって言うかも知れないけどさ…。…本当に…危ない奴だから」
裕君の瞳には、ワガママ、って感じがしなかった。本当に言葉に出来なくても、王神君は危ない人だと裕君の瞳が言っていて。
でも、どうしても…王神君が危ない人とは思えなくて……。
「…で…も、…王神君とは…もう…友達です……」
「……僕の言うこと聞いてた?……これ以上、王神といるのはダメだからね」
裕君は、そう言うと私の髪の毛を優しく触る。
「…………っ…」
私が、弱々しく頭を振ると、裕君は私の胸ぐらを掴んだ。
「……言うこと聞けないって、猿以下だけど?」
私の身体は、恐怖で震えることしか出来なくて。
「……ごめ…ん…なさ…ぃ…」
「…死んでも…、知らないから」
私が意味もなく謝ると、裕君は力無く胸ぐらから手を離した。
そして、私から離れると私を置いて廊下を歩いて角を曲がっていった。
「………裕君…」
裕君は、私の呼びかけに気づいてくれなくて……。
角を曲がる瞬間に見えた裕君の表情は、泣きそうになっていた。
「………………」
謝っても…、もう許してくれませんよね…。
でも…、王神君は高校にはいって初めて出来た友達だから……。
王神君と友達をヤメるなんて…私には出来ない……。
「……どうしよう…」
私は、元気を無くしかけて、その場にしゃがみこむ。
グルグルと頭の中に裕君の言葉が回る。
…王神君は良い人。裕君も良い人。……一体、私はどっちの言うことを聞くべきなんでしょうか?
王神君は、私と純粋に友達になりたいって言ってくれて…。
裕君は、私が王神君と友達になるのは許さないって言っていて…。
あーもー……、私の頭が爆発しそうです…。
「……あら?…神咲さん?」
「……あ、伯一先生…」
後ろから声をかけられ、私は素早く立ち上がった。
「まだ帰ってなかったの?…神咲さん、人間でしょ?早く帰らないと、本当に死んじゃうわよ?」
伯一先生は、そう言いながら私の背中を優しく押して、廊下を歩かせる。
「…でも、まだお昼前です」
「油断してると、昼前でも殺されるわよ?」
伯一先生の言葉を聞いて、私は言葉を無くした。
「………ごめんなさい…」
「分かってくれたなら良いのよ。…ほら、玄関まで送ってあげるから、元気出しなさい」
伯一先生は、優しい声で私に声をかけると、私の頭を撫でてくれた。
「…………え?」
あれ?そんなに元気無さそうに見えたんですかね……?
「裕君が、さっき私に言ってきたのよ。…優にちょっと酷いこと言ったから、多分まだ廊下にいて元気無くしてるから行ってあげて、ってね」
「……………」
私、裕君に酷いことしたのに…。それなのに…裕君は、酷くてバカな私の心配してくれたんですか…?
「…なに言われたかは、知らないけど…。……裕君が言った事は間違ってないと私は思うわ」
「………先生は、友達をヤメれますか」
玄関に着いて、私は上靴から外靴に履き替える。そして、俯いて私は口を小さく開いた。
「ん?どういうことかしら?」
「…私、裕君に王神君は危ない人だから友達になるなんて許さないって言われたんです。…私は王神君とは良い友達になれると思っていて…。……だからと言って、裕君の言ってる事を全部間違ってるとも思えなくて……」
裕君の言うことを聞かないで、王神君と友達のままでいたら、裕君はずっと嫌な気持ちになってしまう。
でも、王神君の事を信じない事にして、王神君と友達をヤメるとしたら…。私と王神君は良い気持ちはしない。
「……そう…ね…。……先生はね、アナタの立場だったら、裕君を説得するわ。…王神君と友達になりたい、って。…それでも許してくれなかったら、アナタが王神君は危ない人じゃないと裕君に証明してあげれば良いのよ」
「……そう…ですよね…。…ありがとうございます…。…先生、さようなら」
「はい、さようなら。…気をつけて帰るのよ」
私は、お礼を言ってから挨拶をして玄関から出る。
先生の優しくて強い言葉を聞いて、私は先生に言われたとおりに裕君を説得する事にした。
「……………あ…」
「………遅い」
私が校門を出ると、帰ったと思っていた裕君がブスッとした表情のまま私を待っていてくれていた。
「…ごめんなさい」
「…………………」
裕君は、私をチラッと見てから歩き出す。私は、遅れないように裕君の少し後ろに着いていくように歩いた。