私、ヴァンパイアの玩具になりました
私は軽い深呼吸をしてから、裕君の名前を出さないように単純に説明することにした。
「…私の友達が…危ない人ではないと、この傷が治るまでに証明出来たら…。……その人の事を私の友達として認めてくれるって…」
「…んなもん、気にすんなよ……。お前の友達だろ?」
藍さんは、優しい声で私が欲しかった本当の言葉を言ってくれた。
でも…、その言葉は今は無意味でしかなくて。
「だけど…、ひ…。…その人と…証明するって…、もう約束したんです」
裕君の名前を言いそうになって、私は一旦息をのむ。
ほぼ、裕君の一方的な約束でしたが…。
「誰だよ。そんな事言った奴…。教えろよ、ソイツに何もしねぇから」
藍さんは、私と少し距離を縮めながら優しく私に声をかける。
「………これだけは…、言えません…」
私は、涙を流さないように、喉に力をいれながら俯いてボソッと呟く。
「………あっそ」
「…ごめんなさい……」
私が申し訳無さそうに謝ると、藍さんは溜息を吐いた。
「別に…。……だけどな…」
藍さんは、また私に手を近づける。
藍さんだから怖くない筈なのに、私の身体はビクッと震えて、藍さんから離れてしまう。
「優をここまで怯えさせた奴がすげぇムカつく。……ぜってぇ許さねぇ」
藍さんは、ベットを殴りつけ怒りを露わにする。
「…お、怯えてなんか…」
「………じゃあ、なんで俺が触ろうとしたら避けたんだ?」
どこかしら、藍さんは少し哀しげな声で私に問いかけた。
私は、急いで、怯えてないような言い訳を考える。
でも、そんな早く出てくる訳なくて。
「……それは…」
なにか…、言い訳は…。なんか、無いかな…?
「……ほら、言い訳も言えねぇだろ。…優は、俺達、ヴァンパイアに恐怖を抱き始めたんだよ」
藍さんは、私に触れられないと諦めたのか、ベットから降りた。
「…………………」
私は、否定出来なくて口を開けなかった。それどころか、今更その事を自覚したのか、身体は小刻みに震え出す。
「無理に怯えるな、なんてそんな酷い事は言わねぇから。…そんな傷つけられたら、誰だってヴァンパイアが怖くなる…」
「…ごめん…なさい……」
私は思う。
藍さんは、恐怖を植え付けるような傷つけ方はしない。
でも…、信じたくても…信じたくても…。頭と身体は信じてくれない…。
「お前が謝る必要ねぇよ。……バカ」
「………ごめんなさ…。………はい…」
藍さんは、私に向かってニカッと笑ってくれた。
優しい藍さんの笑顔に、何故かドキッと心臓が鼓動を打ちはじめて。少し不思議に思いながらも私は口元を緩めて微笑み返す。
……心臓が…、なんか…変……。私、何か病気なのかな…?
「まぁ…、落ち着いたらリビング来いよ。…晩飯、持ってきて欲しいなら持ってきてやるけど、どうする?」
藍さんの優しさに、何故かまだ心臓が鼓動を打っていた。
「…いえ、そこまでしてもらう訳には…。……リビングに…行きます」
私は、藍さんにハッキリとリビングに行くと言った。
…ここで避けたら、裕君はもっと嫌な気持ちになってしまいます。
「…あっそ…。じゃあ、しょうがねぇから晩飯の時間になったら迎えに行ってやるよ」
「…すいません…。お言葉に甘えても良いですか?」
こういう時、藍さんの気遣いがとても嬉しいんですけど……、…迷惑かけてないか凄い不安になります。
「…あぁ。…んじゃあ、まだ時間あるし寝てろ。ちゃんと起こしてやるから」
「ありがとうございます」
私がお礼を言うと、藍さんは静かに部屋から出て行った。
「……どうしたんだろ?」
私は、胸を押さえながら首を傾げた。
「…いてて……」
…首傾げただけでも、激痛がはしっちゃうんだ…。
「結構…、不便になりそうですね……」
…心臓も変だけど…、いつか治ります…よね。
「………寝ようかな…」
私は独り言を呟くと、ベットに倒れ込んで目を瞑った。