私、ヴァンパイアの玩具になりました
「あの…、…私、戻りますね?」

私は盛り上がってる途中で、軽く声をかけて、その場から逃げるように立ち去ろうとした。

「え?なんでー?…もっといよー!」

でも、私の行動は虚しくも阻止され、翔君に手首を引っ張られ、肩を抱かれる。

「…ぃや、あの……」

翔君から逃げようと身体を動かすけど、私の力ではさすがに無理らしいです…。

「なんなのあの子!翔様に馴れ馴れしいにも程が!」

翔君の事が好きであろう女子のキレている声が聞こえて、私は焦り始める。

早くこの場から逃げないといけないのに…!翔君が離してくれません!

「あの、翔君…私…」

「えー…、優がいないとつまんない…」

そう言って翔君は私を抱き締めてきた、…その瞬間。

「離して下さい!!」

私は離してもらおうと変に焦ってしまい、大きな声で翔君に怒鳴ってしまった。

「「「……………!?」」」

私の大声に、藍さん達どころか、周りにいた女の子までビックリしたのか、廊下はシーン静まり返る。

「…ぁ……、…すいませ…」

私がハッ…となった時には、もう遅くて。

「………ご、…ごめん…。迷惑だったよね……。ごめんね、優。無理矢理引き止めて…」

私をゆっくり引き離すと、翔君はヘラッと笑うと何処かへ走っていった。

「し、翔君!」

私は、人混みを掻き分けて、走っていった翔君の後を追いかける。

でも、私が追いつける筈もなく。

廊下の門を曲がった時には、もう翔君の姿が見えなかった。

「はぁはぁ……、翔…君……」

何処行ったんでしょうか…。

「………どうしよう…」

私のせいで、また誰かを傷つけて…。

「…私……、本当に最低だ……」

人気の少ない廊下の真ん中で、私はへたり込む。

「…なんで………」

私は人を傷つけることしか出来ないんでしょうか…。

「…………………」

溢れそうになった涙をグッと堪えると、授業の始まりのチャイムを無視して、私は翔君を探す。

「……翔君が行きそうな所…、ですか…」

…と言ったって、私、まだここの学園の全体を知りません…。

「……あ、確か…ポケットに……」

私は、受験の時に渡された学園内の地図をどこかのポケットに入れてたような記憶を辿り、ポケットの中に手を入れる。

カサッと触れた紙を取り出して、私はその紙を開いた。

「…あ……、あった……」

私の記憶通り、学園内の地図が入っていた。

「……改めてみると、やっぱり広いんですね……」

あ、感心してる場合じゃありません…。

「………旧体育館…。…現在、立ち入り禁止……」

…立ち入り禁止…。もしかしたら、ここに翔君がいるかもしれませんね…。

そうと分かれば、早く旧体育館へ向かわないと!

私は学園内の地図をポケットにしまうと、旧体育館へと足を走らせた。
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