私、ヴァンパイアの玩具になりました
「───……もっと沢山飲みたいけど…。また風邪引いて、優と離れる方が嫌だから今日はもうヤメるね…」

翔君はそう言って、私の血が付いている口元を手の甲で拭い、ニヤリと笑った。

「……………っ」

こみ上げてきた涙を私はグッと堪え、乱れた制服を整える。

「…ねぇ、優…」

制服を整え終わって顔をあげると、翔君は見下ろすように私の目の前に立っていた。

「……なん…ですか…?」

「……優、知ってると思うけど。裕と僕ね、あまり合わないんだよね…。昔から、全然合わなかった」

翔君はそう言うと、私の前にしゃがみこんで目を合わせた。そして、ゆっくりと口を開いた。

「…でもさ、僕も裕と同じ意見で王神と関わるのは出来れば、ヤメた方がいいと思う」

翔君が私に言った言葉は、裕君と全く同じで、王神君と関わるのはヤメた方がいいということ。

「…………ぇ…」

翔君の言葉に驚き、私はただ翔君と目を合わせたまま、何も言えなかった。

裕君だけじゃなくて…、翔君までも…?

「…なんか、嫌。……何か隠してるって感じがして……。…信用出来ない」

翔君は冷めたようにそう言って、私の歪な形をしたリボンを綺麗に直しすと、スッと立ち上がる。

私は小さな声で翔君にお礼を言うと、私もその場から立ち上がって、翔君と向かい合った。

「…で、……でも、王神君は…」

「別に関わるのを完璧にヤメろとは言ってないよ?…優が王神と関わった事で、王神とどうなろうが関係ないし。……でも、いざって時には優の事、ちゃんと守るよ」

ニコッと笑って私の頭を撫でる翔君の目は、笑っているようで…、どこか笑っていない。

そんな翔君の目を見た私の身体は、嫌でも小刻みに震え出す。

「「………………」」

この静かな沈黙が怖い。…翔君が何を考えているか全く分からない…。

「…ただ、僕は王神と関わって良いことは無いと思うってだけだよ」

「…………………」

「………ねぇ、優…」

翔君は私の髪の毛に指を通して、そのまま髪の毛から手を離して、優しく微笑んだ。

「…ここ、空気悪いから出よっか」

「……そう…ですね…」

私はそう答えると、体育館倉庫から出て行く翔君について行く。

そんな時、私は一人で頭を悩ませていた。

「………………」

最近、愛希君と裕君、翔君が、私に対する態度が少し変わったような感じがします…。

…私の考えすぎだと思いたいのに……。

どうやってもそう思えない…。

…私、また無意識に愛希君達に何かしてしまったんでしょうか…。

でも、どんなに思い返しても思い当たる節がないです…。

私は一体、何をしたんでしょうか…。

…考えても、考えても…。答えが出ない…。

もう頭が一杯です……。…もう全て分からないです…。

「────。…ぅ…。…優…?」

ハッと気づけば、翔君は体育館倉庫の前で私の名前を呼んでいた。

「…なんで泣いてるの?」

「…………ぇ…?」

翔君に言われ自分の目元に手を当てると、確かに私は涙を流していて。

なんで私、無意識に泣いているの…?

「どこか痛い?……あ、ごめん。もしかして、僕が牙刺した所?」

翔君は私に謝ってから、私の傷口を優しく撫でた。

「い、いえ…。…目……に…ゴミが…」

ゴシゴシと腕で涙を何度も拭った。ジワリと濡れていく制服。そして、無言の翔君。

翔君、いまの私が面倒くさいと思ってますよね…。早く…早く止めないと。

でも、涙を止めようと意識すればする程に、涙は溢れて止まらない。

「…あはは…。…目にゴミ入ると……、凄い…痛いですね…」

腕で目を隠し俯きながら、私は笑った。でも、翔君は私の目から腕を外して、私の目をジッと見つめた。

「優…、言いたい事あるなら言って?…血飲まれるの痛いから嫌って言うなら、僕は飲まないから。…ね?」

「違っ……、…っ……ふぇ……うぅ…っ…」

翔君の勘違いを否定する途中、私の涙腺は急に緩み涙が止まらなくなった。

それから、私が泣いている間、翔君は私を優しく抱きしめて背中を撫でてくれていた。

…途中、大丈夫、泣かないで、と優しく声をかけながら。
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