私、ヴァンパイアの玩具になりました
授業終了五分前のチャイムが体育館に鳴り響く。チャイムと同時に翔君は、私から離れた。

「優、今から嘘ついたらダメだよ?」

「………はい……」

私は短く返事をして、コクンと頷く。翔君は、ニコッと笑うと少しの間目を閉じて静かに息を吐く。

「優、なんで泣いたか教えてくれる?…僕に血飲まれて痛くて怖くて…嫌で泣いたの?」

それから目を開けると、翔君は真剣な眼差しで私を見てきた。

翔君の綺麗な瞳に吸い込まれそうになりながらも、なんとか私は翔君の言葉に集中する。

「違います…」

正直に答えると、翔君は私を少しも疑わずにそのまま話を続ける。

「そっか…。じゃあ理由教えてくれる?……あ、無理とは言わないよ?…ただ、…優が不安な事とかあるなら僕が無くしてあげたいからさ」

翔君の優しい声に私は、目を閉じて一回深呼吸をした。

「………私…」

「ん?」

「…私は優しいご兄弟皆さんが大好きです…。でも…、皆さんは私の事嫌いだか…」

「ちょっ、ちょっと待って。初めからなんか勘違いしてるって」

翔君は私が話してる途中で、話を止めて苦笑いを浮かべた。

「え…?私、皆さん大好…」

「いや、その次だよ。…優、勘違いしてるけどさ。…皆、優の事大好きだよ?」

翔君の言葉を聞いた瞬間、嬉しかった。でも、今の私にはその言葉は嘘にしか聞こえなくて。

「そんな嘘は…」

「嘘じゃないって。……でも、なんでそう思ったの?」

ニコッと優しく微笑んだ翔君の笑顔に、私は少し安心して。

翔君に問いかけられた私は包み隠さず素直に話す事にした。

「…王神君を友達として認めてくれないのは、私の事が嫌いだからなのかな…っと思ったん……です…」

自分では言い辛くて、私はチラチラと視線を動かす。

「…優……。…ごめんね、勘違いさせるような言動しちゃって…」

私は言ってから後悔した。

翔君は謝る必要ないのに、翔君は私なんかに謝って…。

翔君の落ち込んでる表情に、私は少し心を痛めた。

「愛希と裕にも言っておくね」

「え…、い…言わなくていいです…」

「え?なんで?」

「だって…、迷惑ですから……。…それに翔君にもまた迷惑をかけてしまいますし…」

「迷惑じゃないよ。…僕は優の事、迷惑って思ったこと一度もない」

私の頭を優しく撫でながら翔君は、口元を微かにあげた。

「…じゃあ、今の事は二人には言わないでおくね。…でも、これだけは約束してほしいな」

「…はい、なんですか…?」

「…今度から、嫌だなとか不安だなって感じたら僕に相談して?…できる限り、優の力になりたいから」

心がスッと軽くなるような優しい声と笑顔。

翔君の優しさは不安ばかりな私を安心させてくれる。

「………ありがとうございます」

翔君の優しさが本当に嬉しくて、私は今日一番の笑顔でお礼を言った。

「………………」

「……翔君?」

すると翔君は急に真面目な顔をして、私の頬に手を当てた。

「…優……、目…瞑って」

「へ?…な、なにするですか?…な、殴ったり…しませんか?」

最悪な場合が私の頭をよぎる。

や、やっぱり私を殴りたいとか、思ったんでしょうか…?

「…しないよ、そんな酷い事。……だから、早く…」

「…………はい……?」

私は何をするのか少し不安になりながらも、翔君の言葉を信じて目を瞑った。
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