Wonderful DaysⅠ
「───マリア」
名前を呼ばれて再び視線を合わせれば、魁さんは私の足元へと視線を向けて
「この靴で走れるか?」
「はい?」
面白い事を言い出した。
「このパンプスでですか? 走れない事はないですけど……遅いですよ、きっと……」
率直な意見を述べれば、何やら考え始めた魁さん。
今の魁さんの発言から考えると……
───私、これから競走でもさせられるの?
このパンプスじゃ、あまり走れないと思うけど……
「最悪、抱えるか…」
独り言のように呟いた魁さんの言葉は、周りの喧騒でよく聞き取れなくて。
「…………?」
何でそんな事を聞いたのかもわからないまま、魁さんは私の腰に添えた手に力を込めると
「マリア。一度、改札を潜ってホームに行くから、俺が合図をしたら階段を駆け上がって停車している電車に乗り込め。」
捲し立てるように言い放つと、足早に近くの改札へ向けて歩き出した。