Wonderful DaysⅠ
「携帯は慧が持ったままなんだろ?」
魁さんの言葉に頷けば、周囲を見回して歩き始めた。
───あーぁ、私の馬鹿。せっかく、魁さんが聞いてくれたのに……
この先、自分から魁さんの番号を聞く勇気なんてないよ。
タイミングの悪さに項垂れていれば、突然、魁さんの足がピタリと止まって、私の足も自然と止まる。
魁さんが向かった先は……
───コンシェルジュ?
ダイニングパークに設置されたコンシェルジュデスクの前だった。
「いらっしゃいませ」
ベージュのジャケットを身に着けたコンシェルジュさんは、にこりと笑顔を見せて丁寧に挨拶をする。
「すみません。紙とペンを貸して頂けますか?」
初めて聞く魁さんの敬語に新鮮さを感じて、思わず見上げてしまった。
「はい、どうぞ」
コンシェルジュさんが差し出した紙とペンを受け取って何かを書いた魁さんは「ありがとうございます」と丁寧にお礼を言ってペンを返した。
───何を書いてたんだろう?
不思議に思っていれば、振り向いた魁さんが
「これ、俺の番号。取り敢えず、家に着いたら連絡しろ」
そう言って二つ折りにした紙を私に差し出した。