Wonderful DaysⅠ
「──…ワザとだろ、慧」
魁さんって何で慧さんと話す時、いつも不機嫌なんだろう?
不思議に思いながら視線を向ければ、壁に背を預けて話をしている魁さんの横顔は眉間に皺を寄せていて、いつの間にかピリピリしたオーラを纏っている。
「──…チッ…わかったよ」
舌打ちをして会話を終了させた魁さんが、スマホを胸ポケットに入れると、こっちに歩いて来た。
「待たせたな」
「いえ……」
何の話をしていたかなんて、とてもじゃないけど聞けない雰囲気に返事も小さくなる。
「──…取り敢えず、行くぞ」
「はい…」
返事をして立ち上がれば、魁さんはベンチ近くのエレベーターのボタンを押した。
既に8時を回っているからエスカレーターは止まっていて、外に出るにはエレベーターで下りるしかない。
大事な紙をポケットに入れて、到着したエレベーターに乗り込めば、外の景色が見えるシースルーになっていて、さっきまでいたシェラトンホテルが目の前にあった。
「綺麗……」
独り言のように小さく呟いた言葉は、二人きりの狭い箱の中でやけに大きく響いて
「そうだな…」
後ろから聞こえた言葉に視線を上げれば、窓越しに映る魁さんもキラキラと輝く横浜の夜景を眺めていた。