Wonderful DaysⅠ
車に乗り込めば下ろしてもらえると思っていたのに、魁さんは全く私を下ろす気がないらしく……
なぜか、私は魁さんの膝の上。
「寒いか?」
さっきまで掛けられていた黒のロングコートに再び包まれて、心配そうに覗き込んでくる魁さん。
車内は暖かい筈なのに、全くと言っていいほど震えが止まらない私は素直に頷く。
「マリアちゃん、大丈夫?」
いつの間にか反対のドアから乗り込んできた葵さんが声を掛けてくれるけど、返事をしたいのに噛み合わない歯がカチカチと音を立てるだけだった。
「どうする? 病院に連れて行くか?」
私の症状を見て顔を顰めた葵さんが、魁さんに視線を移して尋ねたけれど
「……いや……重盛、家に向かえ」
「はい」
病院ではなく、家に向かえと伝えた魁さん。
───家って誰の?
静かに走り出した車は、駐車場を出て誰かの家に向かい始めた。