Wonderful DaysⅠ
注射が好きな人もいないだろうけど……
小さい頃から本当に注射が大嫌いだった私は、予防接種の度に逃げ回っていた。
今も逃げたくて仕方がないのだけれど、高熱のせいで鉛のように重い体は思うように動いてくれない。
「そんなに痛くないからね?」
安心させるように優しく微笑んで、血管を浮き上がらせる為のチューブを素早く私の腕に巻きつける先生。
───そんなに? ……って、どのくらい?
あやふやな表現をする先生に、恐怖心が増してくる。
その間にもアルコール綿で消毒されて、今にも針が刺さりそうになっている腕を引き攣る顔で見ていれば、何かが頬に触れた瞬間ぐるりと視界が変わる。
「お前、注射嫌いなんだろ? 針が刺さるところなんて見ない方がいいんじゃないのか?」
突然、目の前に現れた見目麗しいお顔に思考が停止した。
「…………」
「マリア…?」
目を見開いたまま、反応を示さない私を怪訝な表情で見ている魁さん。
「…はい、終わったよ。点滴が終わるまでは腕を動かさないでね」
隣で聞こえた声にハッとして振り向けば、どうやら魁さんの美しいお顔に見惚れている間に針を刺し終えていたらしく、上を見上げれば点滴の液がポタポタと少しずつ落ちてくるのが見えた。