Wonderful DaysⅠ
「あぁ……ごめん、ごめん」
謝りながら、壁の時計に視線を向ける。
時間を見れば、そろそろアル君が空港に着く頃だった。
ポケットに入れていたスマホを取り出して、画面をスライドさせていれば
「……で? 何を忘れてたんだよ?」
向かいから顔を顰めた響君が声を掛けてきた。
「ん~、さっきのお客さんにね……大事な事言うの、すっかり忘れててさぁ~」
「…忘れるなよ……」
「あはは」
笑いながら、指で通話画面に触れると
『Hello.』
呼び出し音も鳴らないうちに繋がる相手に苦笑い。
「あ……ハロ~! アル君?」
『何だよ、慧』
さっき追い出すように返したからなのか、すげぇ嫌そうな声で答えるアル君。
「あのね? マークさんに言伝してもらいたいんだけどさ」
『…兄さんに?』
俺からマークさんへ伝言なんて初めてだから、訝しげな声に変わったアル君。
「うん、そう。マークさんとの賭けの事。魁君の勝ちだよ……って伝えて?」
『おい、それって…』
「じゃあ、頼んだよ」
『お、おい! 待っ……』
アル君の返事を聞く事無く、通話を終了させた俺。
さて。マークさんは、どう出てくるかなぁ……
向かいでは、唖然とした顔の響君が視界の端に映ったけど、それを気にする事無く紅茶の入ったティーカップに手を伸ばした。