誘惑HONEY
奥様なHONEY
「おかえりなさいっ」
玄関を開けると同時に、まるで仔犬のようにナオが飛び付いてきて。
待ってました、と言わんばかりに嬉々とした様子で迎えてくれた。
「……ただいま。」
促されるまま中に入れば、すかさず俺の鞄を引ったくって、
俺が靴を履き替えるのを、今か今かと待ちわびる。
……こういうところは、普通に可愛いんだけどなぁ。
全身で喜びを表すナオ。
ナオの愛情表現は、非常にわかりやすいから。
最初の頃は、遠慮して隠してたみたいだけど…
今じゃもう、顔を見ただけでほぼ察しがつくようになってきた。
だから…
「……何?」
この“視線”の意味も、ホントはちゃんとわかっている。
「んー?」
俺の鞄を両手で抱えながら、首を傾げて上目遣いに見つめてくる瞳。
俺を促しているのは明らかだ。
でも、ここで負けちゃいけない。
ナオの思うツボだ。
気づかないフリをして、リビングへと足を踏み出した…のに。
「ねぇ、龍ちゃん?」
ちょこん、と俺の袖口を掴んで。
甘えた声でナオは続けた。
「何か、忘れてない?」