誘惑HONEY
「実習、どう?」
当たり前みたいに並んで歩き出すと、木下は親しげに話題を振ってきた。
「まぁまぁ。」
あんまり話したくないんだよなぁ…眠いし。
思いつつも、無視はできないので、とりあえず返す。
言っておくが、俺と木下は別に“友達”ってわけじゃない。
ここに来るまでは話したことすらなかったし。
たまたま、同じ大学から来てるのが2人だけで。
かつ、同じ学年の担当になった…ってだけ。
なのに、コイツは初日からやたら馴れ馴れしくて。
ことあるごとにベタベタと引っ付いてくる。
正直、迷惑極まりない。
「でも、沢木くんはいいよねぇ。石浜センセイでしょ?」
「ん…」
「マミなんて、坂井センセイじゃん?あの人いちいちきつくてさぁ。だから独身なんだよね。なんだっけ?“オールドミス”?」
「んー…」
木下の話を聞き流しながらも、押し寄せる眠気。
昨夜は…
あの手この手で迫ってくるナオの誘惑をかわすのに忙しくて…ほとんど寝てないもんなぁ。
結果的には俺が勝って、それには満足なんだけど…
こんなんじゃダメだよな。
「…ねぇ、沢木くん?」