誘惑HONEY
「んー?」
次の廊下を曲がれば、ようやく解放される。
そこで、ふいに木下が立ち止まった。
仕方なく合わせると…
「実はマミ、悩んでるんだ」
憂いを帯びた瞳で、上目遣いで俺を見つめる木下。
…うわっ。わかりやすい女だなぁ。
思惑バレバレ。
「悩み?」
でも、それには気づかないフリをして。
俺は尋ねる。
かわし方は心得てるから。
「うん。実習のことで…」
俯きながら、深刻そうに唇を噛んで…
「沢木くん、よかったら相談に乗ってくれないかな?」
申し訳なさそうに、でも、有無を言わせぬ調子で言い切った。
「相談、ねぇ…」
「少しでいいの。例えば…そう。食事しながらとか。」
「食事かぁ…」
考えているフリをすれば、
「そう。あ!今日なんてどう?週末だとお店も混むだろうし…」
すかさず木下のプッシュが始まる。
…はぁっ。面倒くさい。
「悪いけど…今日はちょっと、先約があるんだ。」
ある意味、俺に先約がない日なんてないんだけどさ。