誘惑HONEY
「……っ」
じっ、と。
まっすぐに、こちらを見つめているナオがいた。
唇を噛みしめて、瞳を揺らして…
……見られた?
いや、たった今通りかかっただけ…?
いずれにせよ、あんな約束をした直後にこんな場面を目撃したら…
「あっ、おいっ…」
案の定、ナオはくるっと。踵を返して駆け出した。
くそっ…
「えっ?沢木くん?」
驚く木下を押しやって、俺は走り出した。
「ナオっ!」
やっとの思いで追いついて、ナオの腕を捕まえた。
コイツ…
意外にすばしっこいんだよな。
息を整えながらも、掴んだ腕を引き寄せて…
ナオとまっすぐに向き合う格好になった。
「ナオ…」
瞳いっぱいに涙を浮かべながら、俺を睨むように見上げるナオ。
木下のときとは違う。
そんな顔されたら、なんかもう…痛くてたまらない。
「ナ…「嘘つき!」
涙を拭ってやりたくて伸ばしかけた手が、行き場を失う。
「さっき、約束したばかりじゃない」