その一枚がくれたのは、勇気と恋でした
「ごめん。

俺、何ていうか···」


一言も話さずに走り続け、写真部の部室の前に着くとようやく彼は話しかけてくれた。

彼の走るスピードはとても速く、私は息が上がってしまい、大きく肩を上下した。

それは彼も一緒だったようで、同じように肩を上下させ、申し訳なさそうな表情でこちらを見ていた。


「和中君、見た目よりも力強いね。

それに、足も速いよ」


二人で手を繋ぎ、群衆を掻き分ける姿を思い出し、思わず私は笑ってしまった。

ドラマやアニメに出てきそうなことを、私たちは文化祭という舞台でやってのけてしまったのだ。


「どうしても、木ノ内さんに見てもらいたかったから」


そう言いながら部室のドアを開ける彼の表情は、汗がわずかに滴り落ちながらも爽やかで笑顔だった。



部室が夕日の色に目一杯染まり、その逆光の中から彼が手を差し伸ばす。

私は何も言わずに彼の手を掴み、このままエスコートされることにした。
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