海の街へ奇跡を
「あっつ……」
もう少しで坂をのぼり終えるってところで、お母さんが小さく呟いた。
「影なーいー。お母さんわたしの影になってよ」
「何言ってんのよ。現役の高校生が弱音はかないの」
「弱音はいてないもん。お母さんだって現役のときは毎日ここ通ってたんでしょ」
「あれから何年たってると思って……」
2人して息をぜぇぜぇ切らしながら、やっとの思いで坂をのぼりきった。
目の前には、白い壁の大きな家。
ポストはシックな黒色で、その上に『HASAKI』と書いてある。
この島の雰囲気にはあまり合わない、新築のような一軒家。
ここが、お母さんの実家。
おばあちゃんの住む家。