桜舞う
7回目の嫁入り
多くの武将たちが天下を我がものにと争っていた戦国時代。沢山の有力な武将が領土を広げる中、最も領土を広げ、力をもっていたのが、鈴姫の兄、橘直之であった。若くして一国一城の主となり、西国を中心に領土を広げ、今では西国で直之の領土でない国はないに等しい 。

鈴姫は、ぼんやりと庭を眺めていた。普段着ている小袖よりも何倍も重い無垢を着て、化粧もして。これから祝言だというのに、気持ちは上の空。鈴姫にとって、祝言はこれで7回目。兄の直之によって決められ、兄によって離縁させられの繰り返し。どうせまた離縁させられるのだから、最初から祝言など期待していない。兄はまた領土拡大のために自分を使うだけ。
(今回は西国と東国の中間当たりの国って言ってたかしら…。)
兄の直之は、この縁談を鈴姫に話したとき、こう言った。
「こ度の相手こそ、鈴にふさわしい男じや。」
そんなことを言ったのは、多分今回が初めて。兄に家来が出来始めた頃からずっといる侍女の松江は、
「こ度の殿はきっと鈴姫様を大切にして下さいますよ。」
と言っていた。少しは期待してもいいのかもしれない。しかし、心ではきっと今ではまで通り、半年も経たずに離縁になるのだと諦めている。
「相手が誰であろうと、最後は同じだわ…。」


ぼんやりとしているうちに、あっという間に時がきた。今座っているところまで自分がどうやって来たのかよく覚えていない。ただ松江が連れて来てくれたことはぼんやりと覚えている。横には鈴姫よりかなり背が高いであろう殿方が座っている。この殿方こそ、鈴姫の7番目の夫となる、牧村吉辰である。しかし、鈴姫は次々に挨拶にくる方たちに作り笑顔を見せるだけであり、心ここにあらずの状態であった。

(この姫は笑えぬのだろうか…。)
吉辰は、横の鈴姫が挨拶にくる家来たちに作り笑顔を向け、本当は全く笑っていないことにいち早く気づいていた。父である牧村辰之介から、鈴姫のこれまで歩んで来た道は大まかに聞いていた。だからこそ余計に気になった。祝言が始まった時から、鈴姫はほぼ抜け殻に近い。
(どうしたものだろうか…。)
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