桜舞う
それからの城内は嵐のようであった。戦支度に城内全ての家臣が動いていた。
鈴姫は道中の握り飯作りと家臣たちの鎧の下に身に付ける衣の準備に追われ、寝る前を惜しんで手を動かしていた。

不安がないわけではない。嫁入りして初めての出陣。不安な事だらけである。しかし、あくまで鈴姫は城内では姫。家臣の前では凛々しくいなければならない。手を動かしている分、気が紛れるため作業に没頭していた。

出陣を明日に迎え、準備がなんとか整ったのは既に夕方となっていた。しかし女たちはまだ夕餉の支度が残っていた。鈴姫も休む暇もなく台所に向かおうとすると、松江にぴしゃりと止められた。

松江に敵うはずもなく、鈴姫は夕餉まで部屋で休むことにした。

部屋に戻ると、既に吉辰が戻っていた。準備に没頭したせいか、鈴姫は、吉辰と二人になるのが久しぶりのような気がした。

吉辰は刀の手入れをしていた。鈴姫は邪魔にならぬよう、少し後ろに静かに腰を下ろして、吉辰の背中を見つめていた。
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