円卓の愚者ども
こんなにダッシュしたのは何年ぶりだろうか。
ヘビースモーカーの薫にはつらすぎるダッシュ。だが、つらいなんて言っていられない。10億が目前に迫っている。

あそこを曲がればリビングだ。まだ誰もいない事を祈りつつ角を曲がる。

リビングには誰もいない。俺が一番だ。

ハァハァハァ

息が切れる。

「おい!「X」!見つけたぞ!ほら!」

出せる限りの声で薫が叫んだ。

「おめでとうございます、辻井様。早かったですね。お約束した10億はのちほど、お渡しいたします。」

言葉がでない、涙まででてきた。これで億万長者になれる。
誰のものかわからない箱を手に、薫は他の「3」人の帰りを待った。

<残り時間、10分>

屋敷中にアナウンスが響く。
大金の使い道を考えながら薫は、ひとりで紅茶をすすっていた。

<残り時間、5分>

時間は残酷にも過ぎていく。

「明美ちゃん!」

ここへきて明美の存在に気づいた。一人で大丈夫だろうか。一緒に探さなければ。箱を見つけなければ明美ちゃんが死ぬ。でも、あと5分しかない。間に合わないかもしれない。

<残り時間、1分>

もうだめだ、間に合わない。明美が帰ってくる事を祈るしかなかった。

「大好きだったよ、明美ちゃん」

<残り10秒、9、8、7、6・・・・>

死のカウントが開始された。
他の3人なんかどうでもいい。明美ちゃん、戻ってきて。
カウントが4まできた、その時。

一人の人間が満身創痍でリビングに現れた。

「明美ちゃん!」

<2・・・1・・・・、タイムオーバー>

ピー

笛の音とともに、ゲームは終了した。
抱き合う二人。
3人の勇者は、二度と部屋に帰ってくることはなかった。

<サイトウケンゴ、キサラギレイコ、シラハタヒロシ、シッカク>
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