小悪魔な彼
 
「こんな場所で、そんな可愛いこと言わないでください」

「颯太が悪い」

「なんでですか」

「……」


そんなこと、恥ずかしくて答えられない。


今まで散々勝手に迫ってきたくせに、
急に触れそうで触れない距離ばかりとって……。

まるであたしは、欲求不満のような現象だ。


「今すぐ、めちゃくちゃにキスしたいです」

「やめて。電車の中なんだから」

「分かってます。
 だから……次の駅で降りてください」

「……」


「ダメ」と答えられない。
ドキドキしながら、早く次の駅に着いてほしいと願っている自分がいる。


運よく、次の駅はこっちのドアが開き、あたしたちはホームに降りた。


すでに暗くなっている外。
ホームにはいくらかの人がいる。


急にちょっとだけ、今の言葉が恥ずかしくなった。
 
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