小悪魔な彼
 
「もう、ほんと最悪なんだよっ……」
《それは……災難ですね……》


お風呂からあがって、あたしは颯太に電話をしていた。


今この鬱憤を、誰かに聞いてもらわないと気が収まらない。


《香澄、もう自分の部屋にいますか?》
「え?もちろんだよ」
《今日はもう出ないでくださいね》
「え?なんで?」

《当たり前じゃないですか。
 同じ屋根の下に、まったくの他人の男がいて……
 はっきり言って、俺のほうが今、頭がおかしくなりそうです》

「颯太……」


電話越しから伝わってくる、颯太の不安と焦り。

それを感じるだけで、あたしの鬱憤はどこかへ行ってしまった。


「大丈夫だよ。絶対に変なことなんか起きないから。
 あたしには颯太だけだよ」

《……分かってます》


少しだけ、安心した声。

あたしも思わず、顔がほころんだ。
 
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