小悪魔な彼
「さ、帰れ帰れ!
これ以上、この部屋にいたら、本当に襲っちまうぞ」
猛にぃはあたしの腕を引っ張ると、ベッドから起き上がらせた。
あたしはどうしたらいいのか分からず、体を押されるがまま…。
「猛にぃ……」
「なんだ?」
玄関に向かいながら、後ろにいる猛にぃへと振り返った。
「あたし……猛にぃのこと、確かにいつも怖いって思ってたけど……
嫌いだ、って思ったことは、一度もなかったよ」
「……ん」
猛にぃは笑った。
優しい笑顔で。
本当は何かもっと声をかけたかったけど、これ以上自分がいるのも酷過ぎる。
あたしは最後に、「じゃあね」と声をかけて部屋を出た。
もしも最初から、猛にぃが今のように素直にあたしへ想いをぶつけてくれていたのなら……
あたしは猛にぃのことを、好きになっていたのかな……。