小悪魔な彼
「猛にぃ!どうしたの?」
「よ!」
玄関を出ると、猛にぃが立っていた。
猛にぃはとくに手ぶらで、家の前にはバイクが停まっている。
「ちょっと家こねぇ?」
「え?」
さすがに、家と聞いて、ほんの少しだけ警戒心が湧く。
だけど猛にぃは慌てて手を上げると、
「あ、べつにやましい気持ちとかねーから!
ちょっとお前が、笑顔になれること、してやろうと思ってな」
「……」
そう言って、屈託のない笑顔を向けた。
いつから猛にぃは、そんな笑顔をあたしに向けてくれるようになったんだろう……。
「猛にぃ、今日仕事はー?」
「休み!」
バイクの後ろに乗りながら、風の音に負けないよう声を張った。
結局あたしは、猛にぃの誘いを断れなかった。