小悪魔な彼
 
「な!笑顔になっただろ」

「あ……」


あたしを見て、にこっと笑う猛にぃ。

それを言われて、自然と自分が笑顔になっていたことに気が付いた。


「お前、絶対に落ち込んで、笑うこともしてないと思ったから」
「……」


確かにそうだ。
あの日から、あたしは心から笑うということをしていなかった気がする。

だって、思い出しただけでも、泣きそうになるから……。


「あー、泣くな泣くな!
 うまい料理が台無しになる!」
「ごめっ……」


再び、じわっと浮かんでくる涙を見て、猛にぃは慌ててティッシュを押し付けた。


「今は、目の前の料理だけを楽しめ」

「……うん」


あたしはティッシュで涙を拭うと、再び笑顔を向けてフォークにパスタをくるくると巻いた。


猛にぃの作ったパスタは本当においしくて、無理やりな笑顔を作ろうとしなくても、自然と笑顔になるものだった。
 
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