小悪魔な彼
「うん」とは素直に言えない。
猛にぃに変な気を遣わせてしまうから。
だけどその無言が肯定だと察し、蛇口に伸ばされていた手が、あたしの体へとまわった。
「まだ……俺じゃダメか?」
「……」
耳元で、低くささやかれる言葉。
自然と心臓がときめいてしまう。
何も答えないでいると、体を反転させられ、向かい合う形になってしまった。
「香澄。
いい加減、俺を選べ」
思わず、「うん」と答えてしまいそうになる。
それくらい、猛にぃの瞳は、切なかったから。