小悪魔な彼
「今日こそ俺の存在を知ってもらおうと、香澄先輩の教室へ向かっていたとき……
階段から香澄先輩が降ってきたんです」
「え……。
でもあの日、あたし、極端に帰るの遅い日だったよね」
「俺もあの時、職員室に用があって覗いてたから、香澄先輩が先生に説教させられてるの知ってたんですよ」
「うわー……恥ずかしいとこ見られてた……」
「大丈夫です。
今更、そんなことで引きませんから」
にこにこと微笑む峰岸くんに、なんだか余計なことは言わないほうがいいと感じた。
「以上が、香澄先輩の知らなかった事実です」
「……なんか、峰岸くんの作意が込められている気がしてならないわ…」
「気のせいですよ」
にっこりと笑うその笑顔が嘘くさい。
そしてその余裕そうな笑顔もムカつく。
あたしはその笑顔を、少しだけ崩したくなった。