The side of Paradise ”最後に奪う者”

涼が街を歩きながら時々足を止めて、じっと風景を眺めている時があった。

その訳は綺樹には分かっていたが何も言わなかった。

一緒に食事に行ったレストラン。

ちょっと言い争いをした街角。

お土産を買ってきてくれたチョコレートショップ。

待ち合わせをしたブックショップ。

綺樹は段々と息苦しくなってきていた。

思い出の沼に沈みこんでいく。

涼が感覚で、使っていたアパルトマンとウルゴイティのペントハウスのある
方へ足を向けた時には、限界だと思った。

綺樹は目の端でビルの時計を捉えた。

それは何よりも救いだった。


「5時なので帰ります。
 今後もどうぞよろしく」


涼の反応も見ず、逃げるようにその場を立ち去る。
< 116 / 819 >

この作品をシェア

pagetop