The side of Paradise ”最後に奪う者”
涼が街を歩きながら時々足を止めて、じっと風景を眺めている時があった。
その訳は綺樹には分かっていたが何も言わなかった。
一緒に食事に行ったレストラン。
ちょっと言い争いをした街角。
お土産を買ってきてくれたチョコレートショップ。
待ち合わせをしたブックショップ。
綺樹は段々と息苦しくなってきていた。
思い出の沼に沈みこんでいく。
涼が感覚で、使っていたアパルトマンとウルゴイティのペントハウスのある
方へ足を向けた時には、限界だと思った。
綺樹は目の端でビルの時計を捉えた。
それは何よりも救いだった。
「5時なので帰ります。
今後もどうぞよろしく」
涼の反応も見ず、逃げるようにその場を立ち去る。