The side of Paradise ”最後に奪う者”
綺樹はカップに口をつけたまま、動きを止めた。
さやかが仕事のことを言っていないと感づいたからだ。
でも彼女は摩り替えた。
「そうだね。
この仕事、何とかなると思うよ」
さやかはしばらく黙って眺めていた。
綺樹はその視線に苦笑して、身じろぎをした。
「でも離婚なんて、医者の説明がどうであっても事をせいたわね。
あなた以外の他の者は皆、涼が確実に思い出すと思っているわよ」
さやかの言葉に綺樹は何の反応もしなかった。
ソファーに座ったまま、ずずっと尻を動かし浅く座りなおすと、背に寄りかかり、足を伸ばして、顎を襟元に埋めた。
しばらく沈黙になった。
さやかは逃してくれないだろう。