The side of Paradise ”最後に奪う者”
さやかはくちびるを結んだ。
「フェリックスにすればいいわ」
綺樹はちらりとさやかを見た。
「そうだね」
あまり期待していない声だった。
立ち上がるとさやかに手をひらりと振った。
「今日は疲れた。
お先」
更にか細くなった印象の背中を見送って、さやかは電話を手にした。
インドの携帯事業は渡りに船だった。
だから忙しくなるのは承知で任せた。
削れる他の仕事はなるべく削った。
あまり減らなかったが。
そのためせっかく涼と再婚できたというのに、健康状態は余り上向かなかっ
た。
ただこれだけ厳しい仕事状況の中、精神状態が悪化の兆候を見せなかったのは、涼と一緒だったからだろう。
しょっちゅう帰れていたわけではない。
それでも幸せそうだった。
だからだ。