The side of Paradise ”最後に奪う者”
12.策士は活躍する
*
春が来る前の最後の冷え込みの日々が続いていた。
綺樹は家の中に入るとほっとしてマフラーを外した。
何気なく留守電を見る。
自分の行動にまぶたを伏せた。
だから寝たくなかった。
絶対に電話があるはずが無いのに、こうやって確かめるようになるのだから。
コートを脱いでかけようとしたら取り落とした。
身を屈めて拾おうとして、立ちくらみに襲われ、そばにあった家具に掴まって床をみつめる。
自分の意思とは反対にぽたぽたと水滴が落ちて、床に黒い染みが広がってい
く。
駄目だ、駄目だ。
自分の両目を手で押さえる。
泣くなんて駄目だ。