The side of Paradise ”最後に奪う者”

留学か住んでいたのか、外国から帰ってきた男は妙な自信を持っている。

いまいましい。

涼は急ぎ足で歩み寄って、無言でひたりと男をみつめた。

男は怯んだ気持ちを隠しながら、綺樹に視線を戻し、笑いながら挨拶をして去って行った。

おかしそうな色を浮かべて綺樹は涼を見上げる。


「遅れてすいません」

「構わない。
 暇つぶしをしていたから」


指に移していた煙草をくわえると、テーブルの上に開いたままの本にコーヒーショップのレシートを挟んで
閉じた。

5センチぐらいの厚さのあるハードカバーの洋書は哲学書のようだった。

煙草の火を消して、きゃしゃなビーズ刺繍のバッグと本を手に立ち上がった。

涼が飲み物を片付けて戻ると綺樹はこちらを見て待っていた。


「行きましょう」


綺樹は小首を傾げた。
< 284 / 819 >

この作品をシェア

pagetop